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24 August 2017

Dunkirk | ダンケルク

 Director: Christopher Nolan
Writer: Christopher Nolan
Stars: Fionn Whitehead, Mark Rylance, Tom Hardy, Kenneth Branagh
2017/UK = Netherlands = France = USA
★★★★☆

いや~もう、この映画!見終わった後、グッタリ疲労困憊でございました~。

第二次大戦中の 1940 年。ドイツ軍のフランス侵攻を食い止めるべく戦っていた英仏連合軍が、フランス北部の港町ダンケルクに追い詰められます。背後をドイツ軍に囲まれ、前方は海という状況で 40 万人の兵士が取り残されてしまうのです。果たして彼らを無事救出できるのか?!という実際にあったダンケルク撤退作成が陸、空、海の 3 つの視点で描かれているのですが…。

以下、かなりネタバレとなりますので、これからご覧になる方はそっとウィンドウを閉じてくださいませ…。
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この映画、ほとんどストーリーらしきストーリーがなくて、さらには、ほとんど会話らしき会話もなく、若者たちがひたすら逃げ回っているんですね~。海岸で救出船に乗り込もうと集まっているところをドイツ軍の戦闘機に爆撃されて逃げ回り、やっと船に乗り込んだと思ったら戦闘機や U ボートに攻撃されて沈みゆく船に閉じ込められ、必死に脱出して燃えさかる海を泳いで振出しに戻る…というのが息つく暇もなく延々と。

同時に上空ではトム・ハーディ演じる空軍パイロットが、撤退作戦を支援すべくドイツ軍戦闘機と空中戦を繰り広げているのですが、燃料がギリギリしかなくて。

さらに軍に要請された民間の漁船やらクルーザーやらがイギリス沿岸からダンケルクを目指します。ポンポン船のおじいちゃん船長たちが弾丸がバンバン飛び交う中で兵士たちを救出するんですよ!

こんな諸々を自分も参加しているかのようなグラングラン揺れる映像と、チッチッチッチッという秒針音の入った音楽で観るんですもの、そりゃ疲れますよ。
だけどね、まだ少年のような無名の兵士たちと右往左往する体験は、 間違いなく「戦争イヤ、絶対!」という思いを強くしてくれます。

あと、チャーチル首相の有名な演説("We shall never surrender")は、この時のものだったんですね~。

Wiki によると、このとき、カレーでも英軍部隊がドイツ軍に包囲されていたのだけど、ドイツ軍を惹き付けておくために救出されなかったのだとか。むむむ…。

25 July 2017

All about food! | 食がテーマの日本映画 2 本

ジャパンファウンデーション主催の日本映画上映イベントが、2 週末にわたってありまして。なんと無料、という太っ腹ぶり。張り切って 2 本観て参りましたよ。
上映前に日本の食事情をたっぷり見せつけて「日本へおいでませ」と誘う広告が流れて、すぐにでも帰国したくなりました(笑)


Oyster Factory | 牡蠣工場
Director: SODA Kazuhiro
2015/Japan=USA
★★★★☆

「観察映画」という手法でドキュメンタリー映画を撮る想田和弘監督。なんでも、台本なし、事前打ち合わせなしで撮影したものをナレーションや音楽なしで映画にするそうで。以前、彼が撮った『精神』という映画についての記事を読んで以来、作品を観てみたい!と思っておりました。ら、このイベントで、『牡蠣工場』が上映されたのですよ!嬉しすぎる!

舞台は瀬戸内海の街、牛窓。この牛窓がね~、古い家屋がたくさん残っていて良い雰囲気なのですよ。映画では、この地で操業する牡蠣工場での作業を淡々と映していきます。

やがてこの産業を巡る諸々の事情が明らかになるのですが、それが牛窓に限らず、たとえば、ここイギリスにも当てはまる問題(第一次産業の人手不足とそれに伴う外国人労働者の受け入れなど)をはらんでいたりするのです。鑑賞中に、監督はこういった問題について事前にリサーチしたんだろうな、と思っていたのですが、監督のインタビューを読むと、まったくそんなことはなくて、そもそも牡蠣工場を撮る、というのも当初の予定にはなかったそうで。

「観察映画」というのは、監督が観察して撮る、ということだと思っていたのですが、観客が観察する、という側面もあるのですね~。2 時間以上にわたって目を皿のようにしてこの映画を観た体験は、映画鑑賞というよりは観察、でありました。

他の観察映画も是非観てみたい!


There is No Lid on the Sea | 海のふた
Director: TOYOSHIMA Keisuke
Writers: KUROSAWA Hisako, YOSHIMOTO Banana (novel)
Stars:KIKUCHI Akiko, MINE AZUSA, KOBAYASHI Yuukichi
2015/Japan
★★☆☆☆

吉本ばななの小説『海のふた』の映画化。この小説は原マスミの同名の歌にインスパイアされているそうな。

大学進学を機に東京で暮らしていたまりは、故郷の西伊豆に戻って小さなカキ氷屋さんを開きます。同じ頃、母親が友人の娘はじめちゃんを預かることに。なにやら、このはじめちゃん、色々と事情を抱えているようなのですが…。

原作を読んでいないので、あれですが、共感できない登場人物たちの優しさごっこ的なものが繰り広げられていて、あまりピンと来なかったですねぇ。
特に主人公のまりは、夜逃げしようとする元カレに、まったく事情を知らないくせに、「逃げんなよ!」などと言って切れちゃったりして。観ていてイラッとしました。

でも、人気カキ氷店監修のカキ氷はとっても美味しそうで。特に、サトウキビから作る糖蜜をかけたやつ、食べてみたい!我が地元の行列のできるカキ氷店「赤鰐」を思い出しました。

12 July 2017

In This Corner of The World | この世界の片隅に

Director: KATABUCHI Sunao
Writers: KATABUCHI Sunao, KONO Fumiyo (manga)
Stars: Non, HOSOYA Yoshimasa, OMI Minori, INABA Natsuki, USHIYAMA Shigeru, SHINTANI Mayumi
2016/Japan
★★★★☆

こうの史代原作の『この世界の片隅に』。映画化のニュースを見た時から、観たいよ~と思っていたところ、なーんと英国で一般公開されました!早速、喜び勇んで観に行ってきましたよ。

いや~、原作に忠実なのだけど、アニメーションにしかできないことも盛り込まれていて、こう来ましたか、と。そして、主人公すずの声を演じたのん!イメージにぴったり!1 つだけ難を言えば、編集のリズムが若干ぎこちなくて、慣れるのに少し時間がかかりました。まぁ、これはワタクシの主観だし、何かの意図があって、ああいうふうだったのかな、とも思いますが。

というわけで、以下かなり内容に触れますので、これからご覧になる方はそっとウィンドウを閉じてくださいませ…。
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さて。主人公のすずは自他ともに認めるボンヤリさんで、絵を描くことが大好き。映画はそんな彼女が広島市で過ごした子供時代、 そして18歳で周作と結婚して移り住んだ呉市での生活を描いています。結婚の数年前に戦争が始まっていて、だけど、それはあくまでも遠い出来事でしかなくて、すずは家族と一緒に日常生活を送るわけです。だけど、だんだんモノが手に入らなくなって、毎日の食事にも事欠くようになっていって…この真綿で締めるようにじわじわと戦争の影響が来る感じ、中島京子の小説『小さいおうち』を思わせます。

やがて軍港だった呉は、連日連夜空襲を受けるように。この空襲のシーン、これまで見たどの戦争映画よりも恐ろしかったです。すずたちの暮らしぶりや街の様子がすごく丁寧に描かれていて、あたかも自分もその一部になったかのようだったからでしょうか。配給を受け取りに通った道、野草を摘んだ畦道、そこに容赦なく降り注ぐ爆弾の雨…(涙)

そして、すずは絵を描くための右手を失い、可愛がっていた姪の晴美を亡くしてしまいます。流されるようにぼーっと生きてきた彼女が、否応なしに自分の存在価値について考えざるを得なくなって。そして迎えた終戦で、怒りとやるせなさが爆発するのです。

すずも周りの人も政治や世の中の動きにさほど関心がなくて、その時々を懸命に生きている人たちで。そうやって暮らしていけたらいいのだけど、そんな訳にもいかんのじゃないか、ということを強く思いました。気が付いたら戦争が始まってて二進も三進もいかなくなってた、なんてのはイカんのじゃないか、と。ちゃんと見張ってないと、と。

ところで、この映画、「戦争もの」であると同時に「恋愛もの」としても秀逸でありました。当時の恋愛観が今と違い過ぎて「え?」という部分もありますが、お互いをほとんど知らないまま結婚したすずと周作が夫婦になっていく過程がね~、いいんですよ。お気に入りは、空襲を避けるためにとっさに身を伏せた用水路で、弾丸がバリバリいう中 2 人が言い争うシーン。 今かーい、っていう(笑)

あと、コトリンゴがほんわかと切なく歌う主題歌が良かった!只今脳内でヘビロテ中。

29 June 2017

I Was Born, But... | 大人の見る繪本 生れてはみたけれど

Director: OZU Yasujiro
Writers: James Maki, FUSHIMI Akira
Stars: SAITO Tatsuo, YOSHIKAWA Mitsuko, SUGAWARA Hideo, AOKI Tomio
1932/Japan
★★★★★

先日、バービカン・センターの映画館にて小津安二郎監督の『生まれてはみたけれど』を活動弁士とピアノの生演奏付きで観てまいりました。
デジタルではなく、東京からやって来たフィルムでの上映で、85年前にこの映画が公開されたときと(ほぼ)同じ体験をすることができたのでした。

ワタクシは知らなかったのですが、映画にナレーションを付ける「活動弁士」というのは日本独特のものだそうで。その理由として、歌舞伎や落語の影響がある、というのは大いに納得。最盛期には1万人(この数字、ちょっとうろ覚え)を超える弁士が活動していて、弁士組合の強固な反対でトーキーの導入がずいぶん遅れたそうな。日本では、今でも10数名の弁士の方が活動しているそうですよ。 

この日の弁士の方、春風亭昇太を彷彿とさせる風貌と声で。ナレーションが前面に出ることはなくて、あくまでも黒子に徹している感じでした。そして、アドリブだというピアノ演奏が非常に効果的でありました。

この映画、東京郊外に越してきた小学生の兄弟の目をとおして社会の悲哀のようなものが描かれています。ガキ大将を先頭に年齢の違う男の子たちがわーーっと一緒になって遊んでいるのだけど、新参者の兄弟は虐められるわけです。で、虐められたくないから学校をサボったりするのですが、策略を巡らしてガキ大将を追い落とし、自分たちがトップに君臨します。なのに、子分の父親が自分たちの父親の会社の上司で、いつも家では「勉強して偉くなれよ」と言っている父親が上司に媚びへつらう姿を見て憤慨した兄弟はハンストを決行して…。

この兄弟の動きが一泊遅れのユニゾンのようになっていて、何でもお兄ちゃんの真似をする弟のかわいいこと!

二人一緒になって父親に食ってかかるシーンで、学生の時分にこの映画を観たときには子供たち目線で「お父さん情けない!」なんて思っていたのですが、すっかり大人になった今観ると父親への同情の念が湧いてきます。 

子供の世界にも大人の世界にも、それぞれ序列やらなんやらあって、その中で何とかやっていくしかないのよね、というこの映画のメッセージ、なんだか今に通じるものがありますなぁ。

2 May 2017

The sense of an Ending

Director: Ritesh Batra
Writers: Nick Payne, Julian Barnes (novel)
Stars: Jim Broadbent, Charlotte Rampling, Harriet Walter, Michelle Dockery, Billy Howle, Freya Mavor
2017/UK
★★★☆☆

人生の終盤にさしかかかって、若かりし日の記憶に激しく揺さぶられる男性の話。サスペンスの要素がありながらも全体的にはしっとりと落ち着いた佳作、でありました。

2011年にブッカー賞を受賞したジュリアン・バーンズの『終わりの感覚』が原作。監督は、『めぐり逢わせのお弁当』でワタクシのボリウッド映画に対するステレオタイプを打ち砕いてくれたリテーシュ・バトラ。ドラマ『ダウントン・アビー』で伯爵家のビッチィな長女メアリーを演じていたミシェル・ドッカリーが、主人公の娘役で出演しておりました。

この映画、記憶というものが如何に曖昧なものなのか、ということが描かれておりました。自分の人生が曖昧な記憶の積み重ねだとしたら、と考えると何だか落ち着かないような。でも、古い友人と「あのときさぁ」なんていう話をしていて、お互いのストーリーが微妙に違う、とか結構ありますもんねぇ。

あと、映画の主な舞台がロンドンなんだけど、「ロンドンで生活してます」という映像が良かった。ミレニアム・ブリッジで待ち合わせして、テート・モダンでお茶、とか。地下鉄の長い乗り換え通路、とか。

監督のインタビューによると、原作からかなり変えているそうで。うちの本棚に原作があったので、どこがどう変えてあるのか、早速読んでみようと思います!

18 April 2017

The Salesman (Forushande) | セールスマン

Director: Asghar Farhadi
Writer:  Asghar Farhadi
Stars: Taraneh Alidoosti, Shahab Hosseini
2016/Iran = France
★★★☆☆
今年のアカデミー賞で外国語映画賞を受賞した『セールスマン』。
監督・脚本は、『彼女が消えた浜辺』や『ある過去の行方』 のアスガル・ファルハーディー。

イラン映画好きの友人と期待に胸膨らませて観に行ったのですが、終演後お互いに向かっての開口一番が、「長かったね~」。若干、冗長感が否めず、途中で集中力が切れかかったり。とはいえ、観終わった後いろいろと考えさせられる秀作、でありました。

主演2人は、『彼女が消えた浜辺』に出てましたね~。シャハブ・ホセイニは主人公のいばりんぼうな夫を、タラネ・アリドゥスティは謎の女性エリーを演じておりました。
というわけで、以下かなりのネタバレとなりますので、これから観に行く、という方はそっとウィンドウを閉じてくださいませ…。
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さて。エマッドとラナは仲の良い夫婦で、小さな劇団に所属して俳優として活動しています。
映画は、この2人が住むアパートで突然工事がはじまって、崩れかける建物から住人たちが泡を食って逃げ出す、という「え、これ、パニック映画?!」なシーンで幕を開けます。急遽引っ越しを余儀なくされた2人は、とりあえず劇団仲間の所有するアパートに落ち着くことに(そこには前住人だった女性の荷物が思いっ切り残ってたりするのですが)

ずっと稽古していた『セールスマンの死』が初日を迎えた夜、一足先に帰宅したラナは何者かに襲われてしまいます。
病院に駆け付けたエマッドが目にしたのは、頭に大怪我を負った妻の姿でした。
犯人を捕まえるために警察に行こうと説得するエマッドですが、ラナは頑なに拒み続けます。恥の意識以外に、襲われる前に夫が帰って来たと勘違いして玄関の戸を開けっ放しにしたことから、自分も悪かったと思っている節があるのですよ。そして実際には何が起こったのか、を夫にも言わないのです。この辺りの心理はイスラム圏の文化から来ているのでしょうか?

夫のエマッドは、ならば、と自分で犯人探しに乗り出して、次第に復讐心に取り憑かれたようになっていきます。精神的に弱って怯える妻を労わるのが先なのでは、と思うのですが、そんな妻に対する苛立ちすら見せながら、やっきになって犯人を見つけようとするのです。
これって「俺の女に手ぇ出しやがって」的な、本人は妻のため、と思っているかもですが、完全に自分のため、な行動ですよね。
実際、妻は復讐を望んでおらず、2人の気持ちはどんどん離れて行ってしまいます。

で、結局犯人が明らかになるのですが、これが、すべての伏線がだーーーっと繋がっていく見事なシーンでしたねぇ。恐らく映画館中の人が「こいつだ!」と心の中で叫んだと思われます。

ところで、『セールスマンの死』の上演シーンが結構あったのですが、この芝居と映画の間になにかつながりがあるのかしらん?ちょっとワタクシにはわかりませんでした…。そして、イランでアメリカの芝居を上演できるんだ、ということに軽く驚きました(検閲に引っかかるセリフが、とか言ってましたが)。

28 March 2017

Get Out | ゲット・アウト

Director: Jordan Peele
Writer:  Jordan Peele
Stars: Daniel Kaluuya, Allison Williams, Bradley Whitford, Catherine Keener
2017/USA
★★★★☆

アメリカで黒人である、というのはとても恐ろしいことなのだ!という風刺の効いたコメディ・ホラー。そう、ホラー映画なのにコメディなのです。そしてトランプ大統領が誕生した今観ると、恐ろしさも倍増でございます。

ホラー映画、登場人物がやたら叫びまくって血みどろで…というのが苦手でほとんど観ないのですが、この映画はツレアイたっての希望により渋々鑑賞。だったのですが、めちゃくちゃ面白かったです!笑いながら恐怖を感じる、というのが新鮮でした。

この映画、恐怖シーンが何の前触れもなく突然挿入されるんですよ。で、映画館中から「ぎゃっ」「ひぃっ」という悲鳴が(笑)

物語のベースになっているのはアメリカでの黒人に対する人種差別なのですが、マイノリティへの憎悪、というよりも差別する側には悪気がないんだけど、無知やステレオタイプに基づく言動が結果として差別になっちゃってる、という事に焦点が当てられておりました。それが笑いのネタになっていて。

主演のダニエル・カルーヤ、どこかで見たことあると思ったら、英国のコメディ番組『Harry & Paul』で、秒速で駐禁切符を切りまくる交通監視員パーキング・パタウェヨを演じていた俳優さんでした。

22 February 2017

The Past (Le passé) | ある過去の行方

Director: Asghar Farhadi
Writer:  Asghar Farhadi
Stars: Bérénice Bejo, Ali Mosaffa, Tahar Rahim, Pauline Burlet
2013/France = Italy = Iran
★★★★☆

『彼女が消えた浜辺』を観て、 要チェック、と思っていたアスガル・ファルハーディー監督。先日、BBC iPlayer で彼の2013年の作品『ある過去の行方』を発見、大喜びで鑑賞しました。

男女や親子の葛藤にまつわる心理劇に加えて、「犯人は誰だ?」的な謎解きの要素もあって、一瞬たりとも目が離せない秀作でした。

以下、かなりのネタばれとなりますので、これから観るわ~、という方はそっとウィンドウを閉じてくださいませ…。
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さて。映画はパリの空港に到着したアフマドをマリーが迎えに来る場面で幕を開けます。このシーンがねぇ、絶妙なのですよ。2人の関係はまだわからないのだけど、親しさの中に一触即発的な緊張感のある微妙な空気が彼らの間に流れていることはわかるのです。なになに?と一気に惹き込まれます。

やがて2人は夫婦で、だけどアフマドがマリーの元を去って故郷のイランに帰っていたことが明らかになります。マリーにはすでに新しい恋人サミールがいて、彼と結婚するために正式な離婚手続きをすべく、アフマドを呼び寄せたのでした。

このマリーを演じたのが『アーティスト』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたベレニス・ベジョ。魅力的なんだけど、なんだかエライ自分勝手な女性を好演しておりました。『彼女が消えた浜辺』の主人公といい、この監督の描く女性ってちょっとビッチなんですよねぇ。監督の女性観を反映してるのかしらん?

マリーは、自分の2人の娘に加えて、すでにサミールとその息子と一緒に暮らしています。なのに、アフマドにホテルではなく自宅に泊まるよう言ったりするわけですよ。その間、サミールには自分の家に帰ってもらって(!)。そこには最近うまくいっていない、難しいお年頃の娘リュシーとの関係を取り持って欲しいという思惑があるのですが。

さて、このリュシー、反抗期で母親に反発しているのかと思いきや、サミールが既婚者で彼の妻が自殺未遂を起こして昏睡状態にあるのに、結婚を考えている母親が許せない、と。さらには実は妻が自殺を図る前日に、マリーとサミールがやり取りしたメールを彼女に転送していて、それが自殺の原因ではないかと罪の意識に苛まれていたのです。

このあたりの事情をアフマドが聞き出すのですが、一緒に暮らしていた頃はさぞ子供たちに慕われていたんだろうな、というのが伝わってくるんですよね~。

妻の自殺の原因、というのはその後新たな展開があって、結局は謎のままなんですけどね。だけど、本当は何があったのか?を推測するのに十分な材料が提供されているので、一緒に観た人と楽しくあーだこーだ言い合えそうです。

来月には、ファルハーディー監督の新作『セールスマン』が封切られます。是非とも観に行かなくちゃ!

21 January 2017

Paterson | パターソン

Director: Jim Jarmusch
Writer: Jim Jarmusch
Stars: Adam Driver, Golshifteh Farahani, NAGASE Masatoshi, Nellie
2016/US=Germany=France
 ★★★★☆

ジム・ジャームッシュ監督の新作『パターソン』 。すでに観てから1カ月近く経ってしまいましたが、忘れないうちに感想をば。

主人公のパターソンは、ニュージャージー州のパターソンという街で(ややこしい!)妻のローラ、犬のマーヴィンと一緒に暮らしています。
バスの運転手をしているパターソン、朝出勤して滝の前でランチを食べて夕食後に犬の散歩のついでに行きつけのバーでビールを一杯飲んで、と淡々と日課をこなす日々を過ごしています。
そんな彼は詩人でもあって、ふと浮かんだ詩をノートに書きつけるのですが、ぷくぷくと泡のように出てくる言葉を紡いでいく様子がよかった!それこそ詩的で。

一方、妻のローラはほとんど家から出ないのだけど、常に新しいプロジェクトに取り組んでいて、やたらと変化に富んだ生活を送っています。このローラを演じていた Golshifteh Farahani、どこかで見たことあるなぁと思ったら、以前観たイラン映画『彼女が消えた浜辺』で少々イラつく主人公を演じていた女優さんでした!

この映画の最大の魅力は、パターソンと彼の周りにいる「一見まともなんだけどすこーしだけズレてる人々」とのゆるーい会話。ジャームッシュ節、健在です。

久々に永瀬正敏さんの姿を見られたのも嬉しかった!アジのあるおじさんを演じておりました。

そして最優秀俳優賞は、犬のマーヴィンに捧げたいと思います。

18 January 2017

Endless Poetry (Poesía sin fin) | エンドレス・ポエトリー

Director: Alejandro Jodorowsky
Writer: Alejandro Jodorowsky
Stars: Adan Jodorowsky, Brontis Jodorowsky, Leandro Taub, Pamela Flores
2016/Chile=Japan=France=UK
 ★★★★☆

チリのマルチアーティスト、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の新作映画を観に行ってきました。
と言っても、彼のことは存じ上げておらず、映画館でたまたま目にした予告編が楽しそうだった、というのが観に行った動機なのですが。

映画はどうやらホドロフスキー氏の自伝らしく、思春期から青年となってパリに移住するまで、サンティアゴで個性溢れる芸術家仲間と過ごした日々が綴られています。

もうねー、この映画の何もかもが好き。
現実と虚構が入り混じったようになっていて、一緒に観に行った友人が言っていたように「まるで詩の世界を映像化したよう」でありました。
あと、アレハンドロ少年の子供部屋のインテリアがストライクゾーンど真ん中。
細かいエピソードを積み重ねていくのですが、それぞれに予期せぬオチが付いていて「おぉ、そうくるか!」などと思っているうちにあっという間に映画が終わっちゃって。後で上映時間が2時間と知ってビックリでした。
小人症の人々やら非常に体格の良い女性やらサーカスやら出てくるあたり、ちょっとフェリーニの映画を思わせますな。

ちなみに、主人公のアレハンドロを演じた Adan Jodorowsky とその父親を演じた Brontis Jodorowskyは、ともにホドロフスキー氏の息子だそう。

この映画には、前日譚となる『リアリティのダンス』という映画があるそうで。こちらも是非観てみたい!

13 January 2017

Silence | 沈黙 - サイレンス -

Director: Martin Scorsese
Writer: Jay Cocks, Martin Scorsese, ENDO Shusaku (based on the novel by)
Stars: Andrew Garfield, Adam Driver, Liam Neeson,KUBOZUKA Yosuke, ASANO Tadanobu, Issei Ogata
2016/Mexico=Taiwan=USA
★★★☆☆

原作ものの映画で、「原作を先に読むか、映画を先に観るか」 というのは意見の分かれるところ。ワタクシの場合、原作を先に読むと、頭の中に「俺バージョン」ができちゃって映画にガッカリすることが多いので、大抵、映画を先に観るようにしています。

が。マーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の『沈黙』を映画化したと聞いたとき、宗教に詳しくなければ信仰心も持ち合わせていないワタクシに理解できるのか?と心配になって、先に原作を読んでおくことにしたのです。

準備万端で映画館に向かったのですが、なんと言うか、観ている間中ずーっと原作のダイジェスト版、という感が拭えず。160分という長尺だったのですけど。主人公の内面の動きで進んで行く物語を映像化する、ということの限界か?

とは言え、その映像美には目を見張るものがありました。恐ろしいシーンでさえ、なんとも美しくて。
日本が舞台のシーンは台湾で撮影したそうですが、長崎の漁村や市中の様子が見事に再現されておりました。 

日本から出演した俳優陣、良い仕事してましたねぇ。
浅野忠信を楽しみにしていたのですが、「いつ出てくるんだろう?」と思っている間に映画が終わっちゃって。エンドロールで、ずっと新井浩文だと思ってた人が浅野忠信だった、と判明したのでした(とほほ)。
あと、鍵となるキチジロー役を演じた窪塚洋介くん。恐らく原作を読んでなかったら称賛ものの演技だったのですが、ワタクシの中のキチジロー像とあまりにもかけ離れていて。。。男前すぎる上に、目力が強すぎる!もう少し目つきに小狡さがあると良かったかなぁ。
個人的には久しぶりにイッセー尾形の姿を見られたことが嬉しかった!重苦しい映画に、ほんのり笑いを添えておりました。

1 December 2016

Creepy | クリーピー 偽りの隣人

Director: KUROSAWA Kiyoshi
Writer: KUROSAWA Kiyoshi, MAEKAWA Yutaka (based on the novel by)
Stars: NISHIJIMA Hidetoshi, TAKEUCHI Yuko, KAWAGUCHI Haruna, HIGASHIDE Masahiro, KAGAWA Teruyuki
2016/Japan
★★☆☆☆

この映画、ロンドン映画祭に来ていたのですが、チケット代が驚愕の16ポンド(約2240円)で、観に行くのを断念したのです。が、このたび英国で一般公開されまして、映画祭で涙をのんだ友人と一緒に張り切って観に行ってきました。ちなみに、チケットが安くなる平日に行ったので、チケット代は6ポンドでございました。

もうねー、この映画、「ザ・香川照之ショー」でありましたよ。文字通りクリーピーな男を嬉々として演じる香川照之の独壇場。なんだけど、逆に、それだけ、という印象だったんですよね~。
以下、かなり内容に触れてますので、これからご覧になる方はそっとウィンドウを閉じてくださいませ。。。
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さて。原作を読んでいないので、元々どういう話なのか分からないのですが。。。元刑事で犯罪心理学者の高倉(西島英俊)は、元同僚の刑事から6年前に起きた未解決の一家失踪事件の分析を頼まれます。
高倉は妻の康子(竹内結子)と一緒に最近引っ越したばかり。隣人の西野(香川照之)は、その言動がなにやら怪しげで。。。

と、出だしは面白かったのですが、なんだか辻褄の合わない部分がポロポロ出てきて。結局、西野は適当な家を見つけると、そこに居座って怪しげな薬(覚せい剤?)で家族をコントロールしつつ、その家の主のふりをして暮らすサイコパスだったのですが、見るからに怪しい西野に康子がやたら接近したりとか。6年前の失踪事件にも西野が関わっていたのでは、となるのですが、その辺りが曖昧なままだったりとか。危険な西野宅に刑事が1人ずつ、応援を呼ばずに入って行って殺されたりとか。なにより、結局、西野は誰なの、というのも謎のままで。

なんというか、もう少し夫婦の心の機微とか、事件の背景にある心理なんかが描かれてると良かったのにな。 あるいは、お化け屋敷的な「怖い~!」っていうのを楽しむための映画だったのかしらん?

黒沢清監督、心理的にグイグイ来る『CURE』や『トウキョウソナタ』は面白かったんだけどなぁ。

30 November 2016

Your Name. | 君の名は。

Director: SHINKAI Makoto
Writer: SHINKAI Makoto
Stars: KAMIKI Ryunosuke, KAMISHIRAISHI Mone, NAGASAWA Masami, ICHIHARA Etsuko
2016/Japan
★★★☆☆

普段アニメはまったくと言っていいほど観ない、ワタクシ。なので、ロンドン映画祭に来たこの映画もノーマークでした。が、このたび英国で一般公開されたことと、我が故郷にほど近い飛騨市が舞台になっているというのを聞いて観に行くことに。

いやー、思ってたより、ずーっと楽しめました!
いつもの如く、以下、かなり内容に触れていますので、これから観に行く、という方はそっとウィンドウを閉じてくださいませ。。。
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さて。何の前知識もなかったので、最初の方は、よくある男女の入れ替わりコメディなのねぇ、なんて思いながら観ていたら。主人公2人の時間軸が違う、ということが分かってからのグイグイとストーリーを進める勢いがすごかった!(RADWIMPS の楽曲がすごく合ってた!)

キャラクターの絵柄はあまり好みではないのだけど、背景が素晴らしかったですねー。雨に濡れた歩道とか、紅葉の山道とか。かつて毎日通勤に使っていた名古屋駅が一瞬出てきたのですが、めちゃくちゃリアルでした!

ただ難を言うと、エンディングは無理やりハッピーエンドにもっていったような、そして若干引っ張りすぎな印象を受けました。あの村がどうなったのか、とか全部説明しちゃうより、曖昧にしておいたほうが鑑賞後に友人とあーだこーだ言い合えて楽しいのにな、と。

それにしても日本のアニメが英国で一般公開されるなんて、感無量。この勢いで、今一番観たい『この世界の片隅に』も公開されないかしらん?

20 November 2016

I, Daniel Blake | わたしは、ダニエル・ブレイク

Director: Ken Loach
Writer: Paul Laverty
Stars: Dave Johns, Hayley Squires
2016/UK=France=Belgium
★★★★★

ケン・ローチ監督の最後の作品、と言われている『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観に行ってきました。
今年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞したこの映画、主人公ダニエルが不条理なまでに複雑な福祉システムに翻弄される姿が描かれています。先日のクエスチョン・タイムで、労働党のコービン党首がメイ首相に「ご覧になってはいかがですか?」と勧めておりました。

以下、映画の内容にかなり触れております。これから観に行く、という方はそっとウィンドウを閉じてくださいませ。。。
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さて。ニューキャッスルで腕のいい大工として働いていたダニエルは、心臓発作を起こして医者から仕事に復帰することを止められます。
映画冒頭、傷病手当を受給したいダニエルと審査担当の女性の電話での会話が流れてきます。この担当者がね~、もう "ザ・お役所" で(実際は行政から依頼された企業、らしいのですが)。マニュアルどおりというか、融通が利かないというか。そんな彼女に戸惑いながらも、ユーモアで応戦するダニエル。この時点で映画館中の人が彼に声援を送っていたハズ。

傷病手当の申請が何故か「働くことができる状態にある」という理由で却下されたダニエルは、ならば、と失業手当を申請しようとします。
これがまた茨の道で、電話をかけても延々と待たされ、慇懃無礼な担当者は型通りの質問をするばかりでこちらの質問には答えてくれず、申請はオンラインでしか受け付けてもらえず。。。文字通り右往左往する(させられる)ダニエルを演じたデイブ・ジョンズは、コメディアンだそうで、追い詰められながらも、どことなくとぼけた味わいのあるダニエルを好演しておりました。あと、この人がうちのご近所さんにソックリで。そういう意味でも、一層感情移入してしまったのでした。

さて、そんなダニエルは、ひょんなことから2人の子供と一緒にロンドンから越してきたシングル・マザーのケイティと知り合います。2人は助け合いながら交流を深めてゆくのですが、映画ではこのケイティをとおして、これでもか、これでもかと「貧困」というものを見せつけてくるのです。

この映画がスゴイのは、重たいテーマを扱いながらもエンターテイメントとして成立していること。そのおかげで、作品のメッセージがすんなりと入ってきたように思います。

ところで、6月の国民投票で Brexit が決まったとき、「信じられない!」と驚きを隠せないわたしに、友人の1人(残留派)が「それは、あなたがエリート(特権階級)だからだよ」と言ったのですね。そのときは、よく意味がわからなかったのだけど、この映画を観て、少なくとも現行のシステムで生活に困窮していないわたしは、エリートかどうかはともかく、非常に幸運なのだな、と。
ダニエルやケイティのように、ほんの少し足を踏み外しただけで、救済されることなく生活が立ち行かなくなる、という立場だったら。 そりゃあ、「現状維持」を象徴する「EU 残留」じゃなくて、「現状を変えてくれ!」と抗議すべく「離脱」に投票するよなぁ。。。そんなことを思いながら、どんよりとした気持ちで映画館を後にしたのでした。。。

30 October 2016

BFI London Film Festival 2016 | ロンドン映画祭 2016

映画ラバーの祭典、ロンドン映画祭。今年は10月5日から16日かけて開催されました。
今年観たのは、是枝裕和監督の新作『海よりもまだ深く』と三船敏郎のドキュメンタリー『Mifune: The Last Samurai』、そしてイザベル・ユペールの大ファン、なツレアイのお供で観に行ったイザベル・ユペール主演の新作2本です。

ではでは、忘れないうちに感想をば(以下、かなりネタばれとなります)。




 After The Storm
Director: KORE-EDA Hirokazu
Writer: KORE-EDA Hirokazu
Stars: ABE Hiroshi, MAKI Yoko, KIKI Kirin, KOBAYASHI Saatomi
2016/Japan
★★★★★

ロンドン映画祭の常連、是枝監督の新作。毎年楽しみにしているのですが、実は『歩いても 歩いても』より後の作品は今一つピンと来なかったのですよ。
でもね、これは良かった!久々に是枝節炸裂してました!

築40年(だったかな?)の団地を舞台に、大人になり切れない男とその母親、別れた妻と子どもが、ある台風の夜を共に過ごして、というこの映画、 『歩いても 歩いても』の姉妹編のような感じでした。阿部寛が息子で、樹木希林がお母さんという配役が同じで、阿部寛の役名「良多」も同じ。タイトルが昭和歌謡からとられているところも同じですよね~。
父親のようになりたくない、と思いながら、気付けば父親そっくりになっている良多。これ、わかるなぁ。ワタクシも自分が言われてイヤだった親の口癖を口にして愕然としたりすること、あります。
なりたかった大人、思い描いていた生活。すべてが思いどおりになる訳ではないけれど、進んで行くしかないんだよね。と、言葉にしちゃうとありきたりなことをしみじみと思いました。

それにしても、ニコニコしながら毒のあるコメントをサラリと言っちゃう、決して敵に回したくないおばあちゃんを演じさせたら樹木希林の右に出るものはいませんな。


 Souvenir
Director: Bavo Defurne
Writers: Jacques Boon, Bavo Defurne, Yves Verbraeken
Stars: Isabelle Huppert, Johan Leysen, Kévin Azaïs
2016/Belgium = Luxembourg = France
★★★☆☆

とってもチャーミングなラブコメディ。

パテ製造工場で働くリリアン。単調な毎日を過ごしている彼女ですが、実はかつてユーロビジョンで ABBA と競り合った歌手だったのです。
そんなリリアンが、「父親が彼女のファンだった」という青年と出会って、恋に落ち、 かつての野心を思い出します。

歌うシーンは、本人が歌っているそうで、垢抜けない振り付けも彼女がやるとなんか素敵に見えちゃう、という。

この映画の最大の収穫は、シリアスな役どころの多いイザベル・ユペールのコメディエンヌとしての側面を発見できたこと、ですね~。あ、あと、かつてのアイドルを前にして舞い上がっちゃう青年の父親もツボでした。


 Elle
Director: Paul Verhoeven
Writers: Philippe Djian (based on the novel by), David Birke
Stars: Isabelle Huppert, Laurent Lafitte, Anne Consigny, Charles Berling
2016/France = Germany = Belgium
★★★☆☆

イザベル・ユペール主演の新作2本目。
原作が大好きな恋愛映画『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』の原作者フィリップ・ジャンの小説で、監督が『ロボコップ』や『氷の微笑』のポール・バーホーベンということで、興味津々だったのですが。うーーーーん、何と言うか、どう判断してよいのか悩ましい映画でありました。

映画は、ゲーム会社で成功しているミシェルが何者かに強姦されるシーンで幕を開けます。実はミシェルには父親が殺人を犯したという過去があり、その経験から彼女は警察をまったく信用していなくて、自分で犯人を探し出そうとするのですが。。。

というスリラーなのですが、コメディでもあって、笑った後に軽く罪悪感にかられるという妙な感じ。そして、セクシャルなシーンにアダルト・ビデオ的な「男のファンタジー」を見てしまって、居心地悪かったり。

イザベル・ユペールの衣装がめっちゃスタイリッシュで、どこの洋服だろう?なんてことも気になりました。


 Mifune: The Last Samurai
Director: Steven Okazaki
2015/Japan
★★★★★

今年の映画祭の締めくくりは三船敏郎の生涯を追ったドキュメンタリーでした。
日本のチャンバラ映画の歴史を紐解きつつ、三船敏郎の生涯、そして黒澤明監督との関係を、当時の関係者のインタビューを入れつつ紹介しています。

もうねー、改めて三船敏郎のカッコよさに痺れましたね~。
今の映画って、こういうギラギラした色気のある役柄ってないですもんねー。

この映画の中で、三船敏郎が若い兵隊の教育係をしていたという大戦中のエピソードが出てきたのですが、若い兵隊、というのは特攻隊員で。今から出撃する、という特攻隊員の写真が出てきたのですが、もうねー、それが、まだ声変わりもしてなさそうな坊主頭の男の子で。なんだか、この写真が頭に焼き付いちゃって、やるせないです。

マーティン・スコセッシ監督が三船/黒澤の魅力を語っていたのですが、この人、相当な映画オタクですね~。

12 August 2016

About Elly | 彼女が消えた浜辺

Director: Asghar Farhadi
Writers:  Asghar Farhadi, Azad Jafarian
Stars: Golshifteh Farahani, Shahab Hosseini, Taraneh Alidoosti
2009/Iran = France
★★★★☆

BBC iPlayer をブラウズしていて、たまたま見つけたイラン映画。
最初の30分くらい、女性登場人物の区別がつかなくて往生しました。だって、みんなヒジャブ被ってバッチリメイクなんですもの。
しばらくして慣れてからは、秀逸な心理劇にぐいぐい惹き込まれました。
以下、思いっきり内容に触れているので、今から観る、と言う方はそっとウィンドウを閉じてくださいまし。
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テヘランに暮らす仲良し家族3組が週末を過ごすべく、車で海辺にやって来ます。
そこには、セピデーが誘ったエリの姿もありました。
エリはセピデーの娘の先生で、ドイツで離婚してイランに戻っている友人のアーマドに紹介しようという計画なのです。

ここで海辺に向かう登場人物たちの楽しそうなこと。はしゃいで、冗談を言い合って。
途中にはテントがたくさん並んだキャンプ場もあって。
なんていうか、イランがらみのニュースには不穏なものが多いけれど、市井の人々はわたし達と同じなのねぇ、と。イランと言う国を良く知らないだけに、新鮮でした。

予約していた別荘がうまく予約できていなくて、代わりに廃屋寸前の別荘に泊まることになってもご機嫌な一行。
これが、翌朝、子供の一人が海で溺れかけて助かったものの、子供たちを見ていたエリがいない、となってから空気が一変します。
子供を助けようと海に入ったのか、それとも1泊で帰ろうとしたのにセピデーに無理やり引き留められたのがイヤで黙って帰ったのか。

このセピデーがねぇ、悪気はないんだけどお節介で、やたら適当な嘘を吐くんですね~。
彼女の吐いた嘘のせいで、事態が悪い方へ悪い方へ行っちゃって。

とにかく捜索を、と警察を呼ぶのですが、実はエリという人物についてほとんど知らないということに気付くのです。
セピデーでさえ、彼女の苗字も知らないという。。。
挙句の果てにエリには婚約者がいたことが判明して(婚約者がいながら、他の男性を紹介してもらうというのはイランではとんでもないことらしいです)。で、セピデーはそれを知っていた、と。では、そもそもどうしてエリは付いてきたのか?
 
大人たちの間でどんどん緊張が高まっていって、仲良しだったのにそれぞれの関係に少しずつ亀裂が入っていって。
このあたりの猜疑心だったり、エゴだったりの描写がリアルでしたねー。

結局エリはどうなったのか、というのは曖昧に描かれていて、解釈のわかれるところかも。

エリに離婚の原因を聞かれたアーマドが、奥さんに言われたという「A bitter ending is better than an endless bitterness (永遠に辛いよりも辛い結末の方がマシ)」は名セリフですな。

イラン映画はキアロスタミ監督の作品を数本観たぐらいでしたが、アスガル・ファルハーディー監督、要チェックだわー。

18 July 2016

The Strawberry Blonde | いちごブロンド

Director: Raoul Walsh
Writers: Julius J. Epstein, Philip G. Epstein and James Hagan (from a play by)
Stars: James Cagney, Olivia de Havilland, Rita Hayworth
1941/USA
★★★★☆


映画であれ何であれ、誰かに「○○見に行かない?」と誘われたら、なるべく行くようにしています。
自分ではまず選ばないな、というものでも行ってみると新たに視野が広がったりするので(あ、でもアクション映画は行かないかも。3秒以上アクションやカーチェースが続くと寝ちゃうので・笑)。
でもねー、この映画は正直迷いました~。トレーラーを確認してみると、19世紀末のニューヨークを舞台にしたラブコメらしく、なにやら陽気な音楽まで流れていて。。。

他に用事もないし、と観に行くことにしたのですが、これが行ってみて大正解。

ストーリー自体は、どうってことなくて、主人公ビフ(ジェームズ・キャグニー)は友人ヒューゴに想い人ヴァージニア(リタ・ヘイワース)を奪われただけでなく、ヒューゴのせいで濡れ衣を着せられて刑務所行きになってしまいます。ヴァージニアへの失恋直後に自暴自棄な気持ちで付き合いだしたアン(オリビア・デ・ハヴィランド)と結婚するビフですが、ヴァージニアへの想いは断ちがたく。。。だけど、最終的には、お金はあるけどお互いに気持ちのないヒューゴ・ヴァージニア夫婦を見て、誠実な妻を持った自分は幸せ者だと気付くのです。

「女の幸せは結婚相手で決まる」的な価値観とか、どっちかというと無礼なビフのどこにアンは魅力を感じたのか、とか相容れない部分もあるのですが、75年前に作られた映画を今の価値観で判断するのは意味ないですもんね。

だけどこの映画、19世紀末のニューヨークの風俗が興味深く描かれているのですよ。
馬車に乗ってデートの相手を迎えに行ったり、ダンス・ホールで踊ったり。
胸に「Y」と編み込まれたとっくりセーター着ていたカレッジ・ボーイと呼ばれるキャラクターがツボでした(Yale の Y?)。今で言う、校章の入ったトレーナーを着る感じ?

あと、当初反目し合っていたビフとアンが、ある会話がきっかけで親密になるシーンが良かったですね。

本編の後に、「皆さんご一緒に!」みたいな画面が出てきて、一緒に主題歌を歌う趣向になっていて、これが楽しかった~。歌の後、みんな一斉に拍手、でした。

それにしても、ジェームズ・キャグニーの出演作を初めて観たのですが、彼、ジャック・ニコルソンにしか見えなかった。。。


10 May 2016

Saul fia (Son of Saul) | サウルの息子

Director: László Nemes
Writers: László Nemes, Clara Royer
Stars: Géza Röhrig, Levente Molnár, Urs Rechn
2015/Hungary
★★★★☆

ホロコーストを描いた映画は多々あれど、この『サウルの息子』は他のどの映画とも違ってましたねー。

主人公のサウルはハンガリー系ユダヤ人。アウシュヴィッツの強制収容所で「ゾンダーコマンド」に選出された彼は、日々、同胞の処刑とその後始末に携わっています。

この映画、ほぼ正方形の狭い画面のほとんどがサウルの顔のアップ。背景はボンヤリとしか映っていないのだけど、裸の死体が転がってたりするのは分かるわけですよ。
監督のインタビューにあるように、「サウルが見聞きしたものだけを見せる」という意図で撮影されていて詳細が見えない分、想像力が掻き立てられて、怖い。なんだか饐えたような臭いが画面から漂ってくるような。

さて、ここからは相当内容に触れていきます。この映画を観る予定の方は、そっとウィンドウを閉じてくださいまし。
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わたし自身は、この映画を観るまで「ゾンダーコマンド」なる人々のことを知りませんでした。他の囚人たちより優遇されているものの、最終的には処刑されることを知っている彼らは、記録を残そうとするんですねー。こっそり写真を撮影したり、紙に書いたりしたものを収容所のあちこちに隠して。
いつ果てるとも知れない日々の中で、後世に伝えようとする姿に打たれました。あんな状況の中で未来を見ることができるなんて。

で、タイトルにもあるように、サウルは息子(あるいは彼が息子と信じ込んでしまう少年)の遺体を見つけて、ユダヤ教の教義に則って埋葬すべく奔走します。
これがねー、「人間としての尊厳を、云々」 というより、仲間を危険に陥れる迷惑行為、にしか見えなかったのですよ、ワタクシには。実際、祈祷してもらおうと探し出したラビは彼のせいで殺されちゃうし、彼のために遺体を隠しておいてくれた医師は、彼が勝手に遺体を運び出しちゃったせいで難しい立場に追い込まれちゃうし。。。挙句の果てに反乱を企てた仲間に託された火薬を落としちゃうという。
でも、サウルの狂気すら宿っているような眼を見てると、あぁ、この人はただただ何かに縋りたいのかなあ、と。

この監督の同じような手法で撮影した短編があるのですが、見たくないものを見なかったことにする人間の業の深さを突き付けられて、「うっ」となります。

 

25 April 2016

Victoria | ヴィクトリア

Director: Sebastian Schipper
Writers: Sebastian Schipper, Olivia Neergaard-Holm, Eike Frederik Schulz
Stars: Laia Costa, Frederick Lau, Franz Rogowski, Burak Yigit, Max Mauff
2015/Germany
★★★★☆

140分間、全編ワンカットで撮影した映画らしい。
という情報だけで観に行ったのですけどね(ドイツ映画、ってことも知らなかった)。
観る前は期待半分、不安半分でありました。2時間以上ワンカットで映画として成立するのか?という好奇心と、技術的な挑戦ありきで製作者の自己満足的な作品なんじゃないの?という猜疑心と。

いやー、もうこの映画、ライブ感が半端なかったです。
編集してないので、A地点からB地点に移動する過程も全部見るわけですよ。 
まるで、登場人物と一緒に自分も夜明け前のベルリンを疾走しているかのような。
実際、観終わった後ぐったり疲れました(笑)

ストーリー自体はどうってことなくて、スペインからベルリンにやって来て間もないヴィクトリアが、クラブで4人組の若者に出会い、一緒に遊んでるうちにとんでもないことに巻き込まれて。。。と言うお話。でも、ストーリーは結構どうでもよくて、役者さんたちのキャラクターの作り込みっぷりや、彼らと一緒に動き回りながら息遣いや何気ない表情をすくい上げるカメラに目が行く感じ。

前半はヴィクトリアと男の子たちのつたない英語でのやり取りがほとんどで、正直退屈。なんだけど、ここを耐えると後半報われます。

この映画を楽しむ秘訣は、予備知識を入れずにただ身を委ねること、かも。
あ、できれば誰かと一緒に観ることをお勧めします。観終わった後、「あそこでさー」と語り合いたくなること請け合いなので。

3 April 2016

Room | ルーム ROOM

Director: Lenny Abrahamson
Writer:Emma Donoghue (screenplay and based on the novel by)
Stars: Brie Larson, Jacob Tremblay, Joan Allen, William H. Macy, Tom McCamus
2015/Ireland = Canada
★★★★☆


エマ・ドナヒューの小説『部屋』の映画化。原作者本人が脚本を書いています。
すごーくいい映画だったのだけど、先に原作を読んじゃってたのが悔やまれます。
なんだか、原作ほどガツーーンと来なくて。。。

ジャックは5歳。マー(お母さん)と一緒に小さな部屋で暮らしている。
一緒にケーキを焼いたり、歌を歌ったり。2人で楽しく暮らしているのだけど、実はマーはオールド・ニック(と彼らが呼んでいる男)に7年前に誘拐され、以来監禁されているのだ。
脱出を決意したマーは、ある計画を思いついて。。。

と、ここからは相当なネタバレになりますので、ご注意あれ。
































この映画は監禁されている親子の手に汗握る脱出劇、ではなくて、むしろ脱出した後の方が大変なんだよ、というお話でした(脱出シーンでは手に汗握りましたが)。

必死の思いで脱出したっていうのに、マーの両親は離婚してるは、世間からは好奇の目で見られるは。。。今まで「部屋」と「マー」が世界のすべてだったジャックは、突然現れた明るくて賑やかな世界に混乱します。で、「部屋に帰ろう」っていうんですねー。マーにとっては、ただただおぞましい場所でもジャックにとっては故郷なんですよね。

でも、そんなジャックが少しずつ周りの人たちに支えられて新しい世界を発見して、そこに馴染んでいくわけです。生まれてから一度も切ったことがないと思われる髪を切ってくれたおばあちゃんに「I love you」というシーン、この映画のハイライトだと思います(書いているだけで、思い出し涙が)。

このジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイの演技の素晴らしいこと!
特にすごいなー、と思ったのは、ジャックの仕草がどことなく女の子っぽいんですね。髪の毛も腰まであって。なんだろう、と思ってたんですけど、生まれてから母親としか接してないから仕草が母親みたいになっちゃうのかー、と。

原作はジャックの一人称で語られていたんですけど、映画では彼の子供としての視点がうまいこと映像化されていましたねー。

一方、マーは周囲の人たちとの溝を埋められなくてどんどん孤独になっちゃう。
父親がレイプで生まれたジャックをまともに見ることができなくて傷付くマー(父親の気持ちもわかるけど)。
とどめにテレビのインタビューで、「ジャックを手元に置いていたのは自分勝手だったのでは?」というようなことを言われて糸がプツンと切れちゃう。
自分で選んで監禁されてたわけじゃないのに、「部屋」で必死にジャックを守って生きてきたのに。 

そんなマーをジャックが救うんですねー。
「悪いお母さんでごめんね」
という彼女に
「でもマーはマーだよ」
と言って(うぅ、また思い出し涙が)。
わたしも飛んで行って、「こんないい子にジャックを育て上げて、あなた、立派だよ!」と肩を抱いてあげたくなりました。

マーを演じたブリー・ラーソンの演技も良かった!オスカー、激しく納得。 
特に、母親の顔と自分の両親の前での娘の顔が違っていて、そうだよね、まだ10代だったときから監禁されてたんだもんね、と。

この映画の映像を胸にもう一回原作を読んでみようかしらん。